ここから先は:「魔王」さんの物語です

大声が飛び交っていた。

「宇宙人に対抗できますよぉおおっ!」
「是非あなたもこっちへぇえええっ!」
「他は嘘! 本物こっちよぉおおっ!」

いきなり飛び込んできた大声に、ぼくは思わず立ちすくむ。
よく見ると、駅前の人々は大きく三つの集団に分かれていた。

どの集団も、中心にはタスキをかけてメガホンを持った人物がおり、
各々呼びかけをしている。

「そうだ!」「闘うぞ!」
とその人物を取り囲む者達が同調して時折合いの手を入れている。

そのほとんどが、目が完全に陶酔している。
何だ? この有り様は……。

ノボリまで立てて派手に演説をしているその集団の一つは、
明らかに「扇子協会」の者だ。

 『宇宙人に対抗できるのは扇子だけ 日本古来の心 扇子協会』と、

深緑の地に朱色と黒で書かれたノボリと、演説する人物のタスキに書かれた
『扇子協会推進部長 高山薫』という文字。間違い無い。

ちなみに後の二つは、「水鉄砲研究所」と「血管を愛する会」で、
あるらしい・・・。どれも胡散臭い。

扇子協会の集団の上をブーメランのように扇子が飛び、
水鉄砲研究所からはぴゅんぴゅんと水が飛んでくる。

それぞれの集団の中心に近い所にいる連中は統一された服装だ。
「扇子」は袴姿、「水鉄砲」はTシャツとサスペンダーで吊った半ズボン、
「血管」は黒いフード付きのマント。

その他の普段着の者達は、演説に惹かれて集まって来た者のようだ。
心酔している者もいるが、野次馬や客観視している者も多い。

彼らの演説は、これが宇宙人に対抗できる唯一の武器で、
共に戦う仲間を募っている、という内容で一致していた。

そして、何故か他の武器は否定している。

最も怪しいのは血管。人数も他より少ないようだ。
しかし、心酔している割合が格段に高いように思える。

何故か周囲の空気が重く淀んでいるように見え、
生臭さがこちらまで漂ってくるかのようだ。

彼らの足元にダンボールが置かれているのだが、
その中には、どうやって集めたのか、
死体から取り出した血管だけが詰っているらしい。そう主張している。

そして黒マント・・・怪しい。絶対近寄りたくない。

怪しいという点では水鉄砲もだ。
昔の小学生のような服装の彼らは、太く拗ね毛の生えた脚を露出し、
時折楽しそうに水鉄砲を人に向けている。

その表情がまた・・・。助けてくれって感じで。

この中でやっぱりマトモなのは扇子だよなぁ、
と見ていると、その集団の中に見知った顔を発見する。山村だ。

「お〜、浅川、こっちこっち」
と、手を振ってくる。そっちへ向かおうとして、ふと気づく。

異様に注目されている?!

よく見ると三つの集団の前で立ちすくむぼくの後ろに、
それ以上の人数の人々が遠巻きにして眺めているのだ。

その目は、ぼくの動向をじっと見守っているように見えた。
それこそ、固唾を飲んで。

ぼくの選択で、闘う為の武器が決定されてしまう・・・
何故かそんな気分になってきた。そういう“場”だった。

どうしようか……扇子でいいのか? 本当に扇子が効くのか?
他の二つのどちらかが効くのか? それとも、全く別の・・・?

悩み始めると止まらなくなってきた。

そして、ぼくは・・・


  1. 扇子で行こうと思った。
    (この分岐より先「マリオ」さんの物語です。)

  2. 「ごめんなさい!」
    (この分岐より先「以心伝心」さんの物語です。)


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