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きゃとみゅう

メリークリスマス

記事No: 3385
投稿日: 2008/12/25(Thu) 13:23
投稿者ルウ
IP: i121-113-197-18.s05.a011.ap.plala.or.jp

メリクリ。と言うことでプレゼント……いや小説ですが。
スイカとは全く関係ありません。申し訳ない。




 カーテンから漏れる日差しを感じ、僕は目を覚ました。
 身体を起こし、伸びをする。頭が徐々に覚醒していくのを感じた。

 カーテンを開けるとたくさんの光が目に飛び込み、そのあまりの眩しさに一瞬目を瞑る。
 真っ白に染まる街。コンクリートの壁や、道路や、木々も全て銀色に染まり、それらが太陽の光を反射して幻想的に世界を彩っていた。

 僕は何故か暖かな気持ちになり、それらを眺めながら微笑んだ。そして一階にに行き、出かける準備をする。
 十二月二十四日。クリスマスイブ。やはりクリスマスに雪は絶対に必要なものだと思う。それだけに昨晩、雪が降った時は本当にうれしかった。

 自室に戻り、グレーのコートを羽織ると、僕は家を後にした。

 辺りは雪一色だ。ほとんどは車や人に踏まれて汚れているが、まだ所々誰にも踏まれていないふわりとした雪が残っている。
 僕はそれを手にとり、そっと眺めた。子供の頃はよくこれを口にしたものだった。今ではとても考えられないが、確かに白い雪には清さが感じられた。
 手に取った雪は体温で溶けはじめている。僕はそれをそっと開放し、再び歩き出した。

 家から歩いて二十分ほどのところにある公園。僕がクリスマスイブに毎年訪れる場所だった。
 普段は緑に溢れている此処も、この時期だけは白く染まる。もう大分子供達が踏み荒らしていると思っていたのだが、予想外にも公園には踏み荒らした痕が
一切無かった。僕は罪悪感を抱きながら、まだ綺麗なままの雪の上を歩いていった。

 公園の隅の、木に囲まれた場所。その場所に、僕は座り込む。
 ひんやりとした感覚が伝わってくると同時に、仄かな暖かさを感じた。

 「……もう四年になるかな。綾乃」

 四年前。最愛の人は此処で倒れた。
 もともと病弱で入院していたのだが、この日だけはどうしても外に出たがった。
 医者も渋りに渋っていたが、三十分だけという条件で折れた。
 その三十分に……彼女の命の火は絶えたのだ。
 
 勿論最初は、なぜ許可などしたのかと医者を恨んだりもした。でも、もともと綾乃は長くなかった。
 暗い病室で息を引き取るよりは幸せな最後だったのかもしれない。最近はそう思い始めていた。
 
 此処に来ると、綾乃の息吹を感じる。幸せそうな笑顔。辛い時もいつだってはじけるように笑っていた。
 でもたった一度だけ、本当にたった一度だけ、彼女は泣いた。
 それは僕が飛び出した子供を助けて、車に引かれた時だった。
 打ち所が良かったのかも知れない。僕はたいして大怪我をせず、足の骨折ですんだ。
 でも彼女は泣いた。もっと自分を大切にしろと泣きながら訴えた。
 でも最後には、またあのとろける様な微笑みを見せるのだ。

「その子供を助けなかったら、亮介じゃない」

 そういって誰も居ない病室でキスをした。
 自分は病弱だけど、もう長くないけれど、幸せだと。だからこそ死にゆく私でなく、自分を大切にしてほしいと、彼女は言った。


 ……その翌年のクリスマスイブに、彼女は亡くなった。
 僕はその言葉をまだ胸にしまっている。僕自身のことを大切にすることは、彼女のことを胸にしまって忘れないことだから。
 僕もまた、彼女と居れて幸せだったから。たとえ死別しても、永遠に会えないとわかっていても、幸せだったから。

 


「今年もホワイトクリスマスだね」


 雪に染まる公園で、僕はそっと彼女に呟くのだった。
 

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