きわめて真面目に心情をトレースしたお遊びパロディ企画

湾岸To Heart−総集編−

「キャラが遠ざかって行くカンジだろ?」
「ホントにこれで…」
「そうだ、EDもED、よくコレで売り出されたモノだ。表現の規制という壁が、本来ゲームの持っていた味をコワして行く。多かれ少なかれコンシューマ移植とはそういうもんだ…。それでも、このTHは悪くない。デキが悪いといわれた志保・レミィ・琴音は描き直され、難関といわれたあかりシナリオも巧くゴマかしている。そこいらのギャルゲーから入ってきても、何ら違和感などありゃしないだろう。それどころか、『やっぱりPCでも話題だったTHは最高ダナ』なんて言ったりしてナ」
「…」
「…少し慣れたか、かわP。人間の感覚なんていいかげんなものでナ…ゲームの評価なんてその直前までやっていたゲームで大きく左右する。お前はPCTHからこのPSTHに入って…そして気がつく。だが、ヤリこむうちに慣れてしまう。ワリ切ろうと必死になっているヤツほどどうにかして自分を納得させようとする。コレが曲者だ。エロシーンが消えて引っ張りが無くなったシナリオは、逆に個人の感情の介入を招く。結果…引っ張りはないのに、どうにか自分で自分を納得させてしまう」
「めろちんサン、次はマルチシナリオに入っていいですか?」
「いいねぇ、やっぱりあかりシナリオは最後にとっときてーからな」


 わるくはナイ…軽快なテンポのVN…PCと同じ高橋水無月のVNだ。本当に完成度は落ちていない、売れているし事実面白い。なのに…このフラストレーションは何だッ!?やればやりこむほどイラつくこの気持ちは何なんだ!?コンシューマの、PSTHの限界はこの程度なのかッ!?!?

 THに性的表現という境界線が絶対的なものとして存在するならば、ほぼその限界までシナリオは切りこんでいる。コンシューマ特有の規制や新要素を盛り込むコトをもろともせず、ベースになった作品のイメージを壊すことなくその世界を継承している。
「ゲーム作りってなぁセンスだろ?な、かわP…?」
 カンペキだ。コンシューマという壁を感じさせるトコはどこもない。だけど…だけどそれでも、イラつくこの気持ちは何なんだ!?これがベストかっ!?本当にこんなものなのカッ!??

「かわPサンずいぶんヤリこんでいるみたいですね。葵ちゃんからマルチシナリオ、そして琴音…」
「どえらいペースで?」
「25日から始めて三日で睡眠一時間食事は一度だけという…」
「くくく…かわっちゃイネーな、アイツはぁ(笑」

「やっぱり気にいらねーか?かわP」
「いえ…そんなコトないですヨ。本当に面白いし……」
「だけどもっと面白くなきゃダメ…と?」
「完成度はコレで本当に十分だと思うんですヨ。各キャラのシナリオバランスも整いましたし、だけど…」
「言ってみなよ、正直に」
「なんか…違う気がするんです。何がどうっ…ってワケじゃなくて、とにかくこうじゃないような気がして…」

「自分の心はどうなんですか…?かわPサン…」
「それもあるだろう…ヲレもまだ昔みたいにトチ狂えない…」
 自分の心…気持ち、本当にそうなのかもしれない、ゲームにはなんの問題もないのかもしれない…。イラつく気持ちは、昔のあのトチ狂った萌え領域に行けない、自分の心にあるのかもしれない。思い出せッ!何が違っていた!?コレだけの面白いVNをやって、なぜあのカンジに行けない!?向こう側に…どうして向こう側に行けないんだッ!?

 凄いヨね、かわPちゃんって
 アレだな、墓場までとうはと持ちこむヨーなヤツ?

 ヤバイよ。完全におかしいヨ。給料全部同人に注ぎ込んでンだって?
 ダイジョウブだって、だってヲレ充実してるからサ。

 かわP…人生は一度っきりだからな…


 怖いのか…もう、どこまでもトチ狂え萌えられ捧げられると思っていた、アレは錯覚姉妹…ただの世間知らず、それだけのことだったのか…?た、確かに、ヤレばヤルほどに…このゲームのデキの良さは分かる。高橋水無月特有のキャラと対面しているかのようなフィールもあるし、なによりも難易度が適度でゲームとして扱いやすい。だけどトチ狂えない、どうしても最後の最後までイケないんだ。ヲレはもう昔のようには萌えられないのか!向こう側に行くコトは、もう出来ないのか……。

「どうして一体感がないんだろーね…?あのとうはととかわP…」
「面白いゲームなんだよ、本当に。キャラは可愛くてシナリオもイイ。アレ以上のVNはヨソじゃ絶対に組め無いヨ」
「でもなんかチガウ…?」
「ヲレの気持ちも在るんだよ…どうしても昔のようにトチ狂えないんだ…」
「くすくす…」
「?」
「実は答えはとっくにわかってるんじゃないの?」


「しかし不満だ…一から全部作りなおしてェ」
「ムリよームリ!みんなそー思ってんだからッ」
「しかしホント時間無いナ。正直フラグの微調整だけであと二週間はほしーヨ」
「しょーがねーだろ、今日を入れてあと一週間になったんだから。確かに時間は無いヨな、だけどイイものになりそーな気がしねーか?ゲーム作りって結局はドコで妥協するかだろ。カンペキに納得いくもんやってると、いつまでもゲームは仕上がらねーし自己マンになるしそしたら売れなくなるし。時間が無い、金が無い、技術もついてこない、どんな仕事でも遣り残しはある。それは事実だヨな。だけど限られたワクの中で少しでも高く妥協点を上げてきたのも事実だろ?きっと…きっと別の次元を見せてくれる、とびきりのゲームに仕上がるヨ」


「おーーーーお、すっかり変わったナ、Leafも…。知ってるかかわP、これがLeafの新作なんだゼ。Piaキャロみたいだろ?昔はF&Cで原画やってた人がLeafでもキャラデザやるなんて、ホント変わりゃ変わるモンだゼ、ナァ!?」
「…」
「そしてこれがPS版のとうはとだ。おーお、黒いディスクの自己主張が激しいゼ、みんな喋るしな、ラジオまで入ってるんだぜ。で、これがDVD…多くのヲタクが深夜にTV噛り付いて見たわけサ」
「て、TV…まで…」
「…ったく、だれが思ったよナ。毒電波なんて言ってたLeafがこんなにメディアに露出しまくりの時代が来るなんてサ」
「……」
「…まだ、昔バナシはできねーか?かわP…。もうLeafもすっかり変わっちまって、昔はホント良かったよな。オレも若くてムチャもいっぱいしてさ…ハハ…なんて話はまっぴらゴメンか?かわP?」

 だからっ…っ

「ほ、本物の…本物のVNを作ってください、下川サンっ」



「早いナ…」
「ええ、とりあえず一読み…」
「そんなんじゃ何もわかんねェだろ??」
「いいえ。十分…分かりました。最高です。カンペキです、理想どおりの…To Heartになっています」

「理想どーり…?そりゃTo Heartのネガな部分が消えたってことか…?単純明快すぎる設定、安易なその後の想像や多すぎるキャラクター。それでいて整合性の無い各シナリオ。ヤリ手を選ぶ?奥が深い?リアルな高校生活?いやいや実はただのクソゲーだろ?」
「…かもしれないですね。でもそれでも…いや、だからこそいいんですTo Heartで。今回パープルリボンがTo Heartでやる事になって、実は少し心配していたんです。もしかしたらTo Heartじゃあ無くなってしまうかも…と。実際、そういうのをたくさん見てきました。キャラも設定も話もまるきり別モンになって−−−結局ワケわかんなくなった同人誌を」
「それでも面白けりゃいいんじゃねーか?」
「いえ…パッと見には面白くても、最終的には心に残りません。少なくともボクはそれじゃ満足できない。作品を作品として正しく理解するために、一番最初のもとの姿が見えないのはイヤなんです。その素材でないと伝えられないのかという疑惑心がでてしまうから…」
「…」
「読み出してすぐ分かりました、恐ろしいほどの表現力…でも、ちゃんとTo Heartです。ゲームその後に迫るストーリーも、それを彩る挿絵も、それはどこまで行ってもTo Heartなんですっ」


 19の時もそして23が目前になった今でも、オレはずっととびきりの時代を過ごしている。昔の仲間には成功して立派なゲームを作っているヤツもいるし、この稼業から足を洗ったヤツもいる。HPは廃れたし、初期の人間も去っていた…。

 でもっヲレが一番幸せダッ!19の時からずうっッと、今でもオレはLeafに憑かれているッ!

 コレ以上の幸せがドコにあるッ!!?!!


「ねぇ、北見サン。2年後ってどうなってると想う?」
「わかるかヨ。そんな先の先」
「2年したら、THがPSで出るっつーのよ。なんかウソみたいでサー。でも、なんだか普通のギャルゲーっぽくなるみたいでさー、Hシーンもハズされるし」
「いやいやTHダロ。出たら秋葉で即ゲットだ」
「メッセとか並んだりして?早朝から?」
「そーそ」
「それからHPか…俺がそうだったようにドップリと。夜も昼もマルチの事ばかり考えてさ。取りつかれてるとしかいいよーがない」
「…」
「北見サン、教えてやってくれないかナ。2年後、まだ俺が俺のままだったら…。お前がいる世界は、世間一般の価値観とはかなり軸をずらして動いている世界なんだと」
「…自分で気づけよ、ちゃんと」
「俺はムリだよ。俺はもう、ズレている事がわかって、やめられない人間になってるから」

12巻203P〜・北見&相沢の会話より


「かわP…おまえ、ゲームは好きか?」
「…え?ま…まあ、ボクには、それしかないし…」
「そうか…。俺は、そんな気持ち、全然ナイヨ。俺はもう、ゲームなんて好きじゃないんだ…」
「よ、めろちんサン…」

「最初のころは楽しかったヨ。チンケなテキストだけだったけど、初めて自分のHPが持てて…ガキの頃からゲーム ゲーム ゲームだけ…女といるより、一人でゲームしているほうがずっと楽しくてサ」
「…」
「大学入っても授業なんて出やしねぇ。とにかくいろいろ手を出したくて毎日働いてヨ。休み前の夜だけが楽しみだ。朝までやりまくってろくに寝ず休みいっぱい攻略に費やす。とびきりの休日はそれで終わり。また次の休みまでクソつまんねぇ日常の繰り返し」
「日常…ですか」
「本当にHPをはじめた頃は楽しかったヨ。毎日毎日とびきりの日々が続いて…。ところが、少しずつ俺の心がさめてきたんだ…。BBS、WEBチャット、IRC…エスカレートすればするほど心は冷めていく…。とびきりの日々が毎日毎日繰り返しているうちに…クソみてぇな日常に変わっちまう。LeafがWhite Album出したころには、俺はもうゲームや同人にはウンザリしてたヨ」
「でも全然そんな風には…」
「マルチがいたからだヨ…。あいつは本当にダレに対してもストレートなんだ。俺はシラける気持ちを気づかれないように毎日必死だったヨ…」

「冷めちまったワケなんか…探せばいくらでもある。徹夜でクリアしたゲームをあっさりケナシちまうダサいヤツ。テメーの感じ方をタナに上げてすべてはソフトハウスのせいだ。…ソーソォ、こういうのもあったな…、2年前だ…『MOON.』のあと、『ONE』が出たトキかな?」
「めろちんサンは『MOON.』も出てすぐたった半日しかも徹夜でクリアして、タクティクスのHPにも顔を出しまくりでONEにも手を出さんと…」
「そぉヨ。俺キライじゃ全然無かったンだよ。でも、手を出す前にこんな声ダヨ。時代はタクティクスだよLeafはもう終わりダネ、だと。…やりきれないヨナ…。あれだけマルチマルチ萌え萌えあかりあかり萌え萌えとか言ってた連中がそんなコト言いやがるンだぜ、オメーの言葉の重さってなんなのヨってな。で、挙句、マルチはロボットなんだからあんな話が書けて当たり前設定頼りダヨなとか言ってたヤツが、ONE最高とか言いやがったサ。笑うゼッ!障害持った人間描くのとロボット描くのの何が違うツーんよナッ!?」
「…同じとは言いませんがネ…」
「…まーな…。…でも、やっぱり、そんなヤツらのせいじゃナイよな……。俺の心が、少しずつ…そして確実に…ゲームから離れていったんだ…。あの…狂ったようなゲームに対するアツさ…。最後の最後はそれなんだ。それが無ければ…本物の二次創作は作れないっ…」

6巻203P〜・大田&山中の会話より


「…少し痩せたな…同人の仕事は時間が不規則でキツイだろ?」
「…ま、まあ…ね。で、でも!やればやるだけ売れるし、普通に働くののカルく3倍は稼いでるぜオレ今!」
「そうやって稼いだ金をまた同人に注ぎ込んでいるワケか…」
「昔からオヤジ、キライだもんな…同人…」
「キライやな。…だけど、こういう本もあるんだな」
「え?」
「これだけのキャラクターをこんなに上手く動かす。完璧な仕事だ。ゲーム本来の設定を知らなくても十分に判る…持ち主の愛情が伝わってくるようだ」
「…同人…再開したこと、怒んないのか?オヤジ…」
「…」
「…」
「…お前は、今でもゲームが好きか?」
「!」
「ゲーム…キャラクターのことを考えていると、夜も眠れん。今でもあるか、そんなこと?…ゲームは使い捨ての100円ライターとは違うよな」
「…」
「仕事をやめるのもええ。同人にかかわるのもええ。さらにこのままオタクの世界に根付いて生きていくのもええやろう。全てはお前の自由だ。ただ…」
「…ただ?」
「ただ、いつまでもゲームが好きなお前でいてくれんか。そして忘れるなヨ。全てのゲームは…キャラクターは、愛を注がれるために存在しているというコトを」
「…」
「無理はするなよ。もしかしたら、まわりはスゴイ人達かもしれんが、お前はお前のペースでやっていくしかないんやしナ。じゃぁナ、元気でやれヨ。正月には自慢の本もって帰って来い」

4巻183P・原田&原田親父の会話より


「仕方無いですよね、ここまでイッたら。何言ってもダメです。絶対に分かり合えません」
「そーかな?本気で手間と言葉を紡げば、伝わらない想いなんて世の中にひとつもない。心の片隅に分かり合おうとする情景がありさえすれば、心を通わすコトは出来る、そううそぶいていたのはお前だろ?」
「そーゆーナマ言っていた時もありました。でも現実問題やっぱりムリなんですヨ。理解するということはまず接点ありきでしょう。接点が無い会話じゃどうにもムリなんですよ。相手の尊重するものも自分の尊重したいものも見えない会話で分かり合おうなんて不可能なんですよ」
「そーゆーリクツはいいんだヨ。…な?…お前の心として、意図的にこう言う結論に持っていった結果として、お前自身のオトシマエの言葉を聞かせてくれヨ」
「…き、北見…」
「……み、未熟だったんです…すべて…。心酔するマルチスト、あんりーの教祖様と囃し立てられ、自分でもドコかそうなんだと思っていた。自分だけが持ち続けていたい想いと伝えなくてはいけない想い、相反する二つを高い次元でシンクロさせて、さらに読み手に何かを伝えられる言葉にと…あまりにも未熟でした…。未熟ゆえ、BBSの雰囲気を破壊してしまった…」
「チガウだろ」
「未熟だったんですヨ。ヲレがもっと説得力ある言葉を紡げたならば…」
「全然チガウ」
「…」
「もし未熟なものがあるとしたら、それは言葉じゃなくて心だろう。最後の最後で伝える事を断念し保身に走った、お前自身の心だ」
「…」
「PSTH…そしてギャルゲーのネガティブな部分しか教えられなかった、お前の心だ。新しい領域が見えていながら、そしてそれを自分自身も求めていながら3年前の情景にとらわれた物の言い方しかしない。すべてはPCTHとLeafへ、その方向に向いている。シナリオ、キャラクター、フラグ…とにかく話をそちらへと導いて行った。最終的に、論点をそこに持っていくために、PSTH>PCTHという道をしめすために。…間違い無く、巧みな戦法だ。…だが、お前が受け手なら、それを望んだか?3年前のお前はそう言う事をしていたのか?」
「…」
「…ヲタクの世界は、いつも失ったモノばかりが目に付く。得たものは少なく、それはわかりにくい。たとえばお前に残っているものは、ほとんど見る事無い同人誌と、それを得ることにより発した出会いだけだ、確かにナ。そして、お前はドコかでそれをヨシとしていることで、彼に対する言い訳としている。一番大切なコトは何一つ教えられず、一人の勇気ある論者を、このBBSから突き放す」
「…」
「お前は、教えてやれなかった。疑問に想うコトの大切さと、それを埋めるべくイマジネーションを働かせるコトの楽しさ、そして…自分だけの想いをもって接するコトによって、何よりも大切な『自分だけの世界』が構築されていくことを、お前は教えてやれなかったんだ」

13巻105P〜・高木&北見の会話より


「集客を求めると、やはり今はKANONか加奈…」
「フーン…で?」
「結局、とうはとにこだわるのがマズいんじゃないですか?3年前ならいざ知らず、今のLeafは他の素材に対して何の優位性もないですヨ。PCも不完全ならばPSでもそれは解消されていないし、入り方によってイメージも違う。どっちの世界も正統だから話は余計判りずらくて論点もかみ合わない。イマジネーションを掻きたてられる設定は、言い換えれば設定にムラがあるだけ…」
「…だからなんなんだ…?」
「え?」
「不利なのは十分承知しているヨ。お前の言う通りPCTHだけで続けて行くのはキツいヨ。その世界を果てしなく広げていくよりも、心の中で想い出と対峙して楽しむほうがいいだろう。でも、PCTHで続けていくんだよ。好きなんだよ、とうはとが。ヲレの波長とLeafがピタリと合うんだヨ。雫、痕、LFそしてPCTH…。限りない愛を注ぐんだ、一番好きな素材で行くのが当然だろう。自分がどんな世界観を持っていても、今のそれでヲレは納得しない。でもそれでいいんだ。もうそれでいいと決めたんだ。行くんだヨ行けるんだヨ最後の最後まで…LeafのPCTHと言う素材ならば」

6巻223P〜・マサキ&山中の会話より


 『本物』のゲームを知っているか?
 どんなに時が経っても素材になりつづけるLeafのVNは知っているか?
 昔ッからこの世界じゃLeafのVNが一番なんだゼ。

 …前作のPCTH。
 今なお最高の完成度を誇る痕。
 そしてルーツといえる雫…。

 なぜLVNがそこまでウケるか分かるか?
 シナリオはもちろん、とにかくキャラが立っている。
 キャラが立っているから、その世界観が目前へと迫ってくる。
 存在が際立ったキャラクターはVN特有の受動的心理をカバーし、音楽と効果音は演出的にも優れる。
 三択の選択肢は程よい難易度を与え、VNをタダのノベルで終わらせない。

 

 そんなことはどうでもイイ…。
 一番大切なコトはタダひとつ。

 限り有る時間を割き愛を注ぐ対象に、LVNとそのキャラクターを選べるという
 その気持ちだ

 わかるだろう…お前にも、その気持ち……

7巻89P〜・マサキとFDより


「理想を求めるイコール…まわりの人も幸せになるとは限らない。それどころか、自分さえ幸せになるかといえばそれも疑問だ」
「…」
「ヲレはこの仕事…Leaf系HPに関わってもうすぐ3年だ。クリエイターの様にゲームは作れないケド、そーゆーHPを作ることで同じ水域で生きていると思ってきた。Leafが大好きで、そーゆーゲームが社会的にもいつか認められると思っていた」
「…いた?」
「でも今は思わない。この3年間でLeaf系の『大切なもの』は何も変わらなかった。ハードもソフトもヲタクの世界から出られなかったんだ。そして…」
「…そして」
「そして、それでいい。いまさら何を迷っている?まっすぐ明るい場所に歩いていくんだヨ。いつも世間と背中合わせのヲタクの世界に、もう君はいるべき人じゃないんだ」

15巻80P・社長&ミカの会話より


『ゲームをゲームとしてちゃんと扱う。それで正しいですヨ。でも、ゲームにそれ以上の愛着を持つこともあるんですヨ』

 そんなこと、絶対ナイと思っていた…。ゲームは仮想現実、夢だけの世界、客の要求にこたえてくれればいい…それ以上でもそれ以下でもないはずだ…。そんな世界に愛着など持つワケがない…。

 だが、とうはとは違う…いつだって…ほかの世界を圧するその存在感、このゲームにはただのゲームじゃない何かがある。それは認める。

『かわPは−−−−ゲームが好きってワケじゃないゼ。とうはとが好きなんだ。ネタ尽きまわりが見向きしなくなっても、心に情景がある限り、かわPは追いつづける。ほかのゲームなど何も見ていない。だが…おまえは違うよな。おまえはいつか今のネタを新しい素材に変える。もちろん、ただの気まぐれじゃぁナイ。ある一線を超えられないとわかった時だ。求める世界に付いてくれなくなれば、今のゲームと別れ新しい次のゲームに行くだけだ』

15巻205P・BB&北見の会話より


 不思議なゲームだ…TH…。こんなゲーム…知らない。
 プレイヤーの意思と、キャラクターの意思がピタリと一致するように…、プレイヤーとキャラの間に、わずかなタイムラグもない−−−−−。

 冷静になれば欠点も目に付く。キャラクター間のシナリオの質の格差、単純に繰り返すだけの選択肢…、だが、そんなコトは霞んでしまうんだ。
 このパッケージングのなかでその存在を隠さない、8人以上のヒロイン候補たち。まず、キャラありき。すべては、そこから始まる−−−−−−。
 VNという形態も、一日単位で進むゲームの進行も、そしてプレイヤーと一体化する、ゲームのその意思も…、懐かしいような…だけど、初めて感じるこのフィール。

 魅入られていく、この心。ごまかせるコトなんてできやしない…!

14巻197P〜・悪魔のZと黒木より


「いーかげんにしろよ、お前。もう俺達はそういうレベルでやってる場合じゃねーだろ。プロのクリエイターとして業界を引っ張って行く。いつまでも18禁の世界じゃあダメなんだよ。コミケ行列3時間待ちなんてそんなバカな時代はもう終わりだろ。これからはコンシューマでギャルゲーを楽しむんだヨ」
「楽しむ?それって自分たちの商売の為にも大事だから?…一般人にも広めたくてコンシューマへ行っても、少しも購買層なんて広がらずに、世界もちっとも広がらないですヨ」
「…」
「ムリですヨ。エロゲーをいくらPS化しようとしても性的表現がある事に意味があるんですから。ドコまでも認められない18禁の世界でいいじゃないですか。流行とか時代とか関係無くて−−−」

14巻222P〜・黒木・元木の会話より


「ただ一つ気になるコトが…読む側見て書いてない気がするんだケド?」
「…」
「もしかして、載せる気は無い?…ってもう載せたか。理解してもらう…」
「…ですね。理解してもらえなくてもいいかナ…と」
「どーして?」
「『Leafの』To Heartという作品を追うつもりでした。こーゆーゲームとそれに繋がる世界があるんだと教えたくて…でも、これは…わからないな、読み手には絶対に伝わらないナと思ったんです…数人うっすらと感じて、二人だけ気づいた人はいるみたいですけど。とにかく、何も知らない大学生からこのHP作って−−もう2年半。どんなに多くの言葉を持ってきても、伝わらないモノがあるコトも知りました」
「…」
「また、それでいいと思います。−−ヲレが−−ヲレだけの為に、To Heartを追います。最後までTo Heartを追います。たとえ最後の一人になっても−−−」
「…」
「−−なーんて間違っていますよねぇ、ヲレぇ」
「ったくね−。どーしてそっち行くのかナ。今まで築いたイイ関係もほとんど飛ばしてサ…」
「ッスよねー」
「…ん…でも、かわPらしーか、こーゆーの。今度はもう逃げるなよ、その世界の前からナ」

15巻185P〜・社長・ミカの会話より


「新刊ですか?」
「ああ、とりあえず新設定で様子見」
「そうですか」
「あんまりPSTHはキョーミなさそうだな」
「いえいえー、時間あれば綾香か芹緒でハデにやりたいですヨ。−ただ」
「ただ?」
「自分のとうはとってカンジじゃあ、ないですよね…」
「…」
「今でもLeafは雫が一番と思っているんです、内容もイってるしさおりん可愛いし…さおりんが可愛いのが大きいんデスケド(笑。でも…ね、もっと身近な世界を求めてとうはとに接して見て、マルチと出会って。コミケ行って見たりカニ食ってみたり、やるコトやったからみんなも見に来てくれてたし。うちのBBSなんかも、雫とか痕時代からPCTH時代に移ってエスカレートしたんですよ。それを今度はPSTHなんてとても言えないですよね」

14巻106P〜・山本・黒木の会話より


「最近はどうですか?Leafって?」
「キツイね。うちがはじめて展開した頃の、あの盛り上がりはもォないヨ。閉鎖されるHPも目立つし、コミケの行列もピーク時の半分だもの」
「原因は?」
「まず、Leafの作品自体がブームだったこと。それで入ってきた者をその世界にとどめられなかったこと。メーカー側にも問題はあったし、受け手にも問題はあった。たとえば、PCTHを出してからもう2年半で、その後の作品といえばWA一本だけ。新しい素材がないからどうしても心が放れて行く。その間に適度に良い作品があればそちらに流れて行くという当然の結果が待っている。メーカーの展開も悪い。一つの素材だけで物事を展開しすぎて、その場の評判を優先、長い目で世界を見られない。そして、ヲレたち傍観媒体者もダメ。言う事は言うけど、言葉に重さを持たせる事や心を動かす事なんてできちゃいなかったからだ。…ところが、今のこの状況、すべが悪いのかと言えばそうでもないのヨ」
「…」
「ハヤリの受け手は去り、ノリだけのHPも遅かれ方向転換だ。パイは限りなく縮小しても、残っているのは本気のヤツばかりなんだ」

15巻73P〜・社長・ミカの会話より


 雫から痕…PCTHそしてPSTHへ−−−−3年半だ。

 …やっぱり雫はいいナ…、心情的にも特別なゲームだ…惹かれる。だが、実践ではやはりPCTHだ、新しいPSTHが出た今でも−−−−−−−。

 ワケしり顔がこざかしい理屈でPCTHを評価する。雫・痕から放たれた学園モノという題材、フラグ立ての前半戦、一見不要なHシーン…ピュアにゲーム性を追及していないと−−−−−−−。笑わせるゼ、何も見えてないクセに。−−−−−−その時、その領域を共にした者だけが、PCTH、その本質を知るんだ−−−−−−−。

 単純作業に見える選択肢は、確かにゲーム性の低下に直結して行く。だが、それはシリーズの根底を無視した評価だ。選択肢よりもその後に続くシナリオに重点を置いた製作は、VN、その名の通り純粋にシナリオで心に迫り、信じられない一体感を出す。不要に見えたHシーンも、キャラクターとの結びつきと愛情の表現として重要な要素を占め…結果−−−−恐ろしい感覚で、ゲームに感情移入する。

 そして、一番大切な事。PCTHは売れた作品なんだ。その領域を知らない者達はカルく言う。ギャルゲーだから売れるでしょ。マルチ出せば売れるでしょ…。ギャルゲーが売れるワケではない、マルチだから売れるわけではないだ。それだけで売れるゲームなんて、世界中ドコにもない。PSTHが悲しくもそれを証明しているんだ。

15巻21P〜・黒木R33GT−Rより


「でももうダメですね。世の中の流れが変わったし、みんなの嗜好も…。大手以外は続けていくだけで精一杯ですヨ」
「…ヘンなコトいうよな、かわPィ」
「!」
「世の中の流れとおめーのやることは関係ないダロ。てめーがやりたいからやる。人が来る来ないはたまたまだろ?」
「(汗」
「かわP、サメてんじゃねーぞ。…。てめーのマルチはどうした?押入れの奥で埃まみれは、ただたつきが可愛いからだけなのか?」
「…(冷汗」

14巻83P・安彦&小山の会話より

 

つづくかも


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