ここから先は:「一号二号三ゴー」さんの物語です

て!

「雨宮先生は僕の憧れだぞ。
お前にも何度も言ったはずだよな。あの(宇宙人ギギ)がすごく好きで
僕は漫画家になろうと思ったんだ。最近はテレビとかにも出てるから
ちょっと変わってしまった気がするけど…。」

「いい男よ。なんていうか、色気があって。」

「なんだよソレ。」

「何でもないわよ。本人に会った感想よ。」

「…」

「宏明がいつも言ってる大先生でしょ。
テレビで見るより実物のほうが全然素敵だったわ。」

「結構マトモな人なのね。宇宙人とか専門だから
変わった人かと思っていたけど。
でも宇宙人は絶対いるって最後まで言ってたわ。
あたしは全然信じてないけど、あの人が言うと
信じてしまいそうになるのね。不思議だわ。」

僕はちょっと嫉妬してしまっていた。
憧れの先生に会った美奈子に。

そしてその美奈子に褒められている先生に。

僕なんか絶対会えないような人なんだ。

美奈子の存在は時々僕を苦しくさせる。
美奈子はとても美人だ。

サバサバした性格で、一緒にいてラクだし、
とてもよく働く。そして頭がいい。

何より…、僕とカラダの相性が抜群にいいのだった。

別に愛とかそんなのじゃない。
それは僕も美奈子も分かってる。

それでも美奈子が他の男を誉めるのは気分がよくない。
それが僕の尊敬する人だとしてもだ。

僕には才能がない。
努力をしても出来ない事というのがあると

大人になって気付かされている。

このままちょっと絵がうまいだけの人として生きていくのか。
本当は諦めたほうがいいんじゃないかと
自分でも思っている。

美奈子には夢があるらしい。
不思議なことに何なのかは教えてくれない。
バイトをたくさんしているのも
その夢のためだと言う。

美奈子は多分夢を叶える事ができるだろう。
自分のために何が必要か知っていて
そのために何でもできてしまう。

そんな女だ。

「どうしたの?」

僕は少しぼうっとしていたようだ。

「あ、ああ悪い、考え事してて。」

「変なの。」

美奈子はセブンスターに火をつけながら言った。

「それで雨宮先生に宏明の話をしたら
一度作品を見せて欲しいって言ってたわよ。
宇宙人に興味がある人が大好きみたい。」

そんなうまい話があるもんか。
だいたいこっちからお願いしても
なかなか会える人じゃないんだ。

「ほら、名刺もらったから。宏明のも。」

フーッと煙を吐きながら、美奈子は一枚の名刺をくれた。

   宇宙人研究家・漫画家・評論家
   雨宮雅夫

宇宙の写真が一面にひいてある、悪趣味なデザインだ。

「いい人だったわよ。酔った勢いって感じでもないし。
ほんとに見てくれるんじゃないの?宏明の作品。
せっかくなんだもの、電話してみたら?」

僕は迷った。

人の、しかも美奈子のコネは使いたくない。
僕は僕の実力で上にいきたいのだ。

でも、そこまでの才能も環境もない。

これはチャンスかもしれない。

僕はベッドに腰を下ろし、しばらく名刺を眺めていた。
ほとんど下着だけの美奈子が僕の膝の上にのってきた。

「男でしょ。勇気出しなさいよ。」

「…」

体温の低い美奈子の感触が、冷たくて気持ちよかった。

「分かったよ。電話してみる。」


  1. 「ずるいなー、美奈ちゃん。こんな素敵な彼がいたなんて」
    (この分岐より先「特効薬助六」さんの物語です。)


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