ここから先は:「特効薬助六」さんの物語です

ドアを開けると、むせるような香水の匂いが、僕の鼻腔を襲った。

「美奈子、来てたのか」
窓際のベッドで美奈子が居眠りをしていた。

「何で鍵かけてたんだよ」
「新聞、水道、ガスって、立て続けに集金がきたのよ。
眠れないから居留守使っていたの」

井上美奈子、24歳、昼間はコンビニ、
夜はスナックと体の許す限りバイトに明け暮れる女である。

同じこの安古アパートの隣りの室に住んでいる女なのだが、
どういう訳かこの僕が気に入ったらしく、
また、僕も彼女の色香のようなものに魅かれて、
なるようになってしまったのである。

今では、僕の室も彼女の室もない、お互いに合鍵を持ち、
第三者が見て、いわゆる内縁と言われても仕方がない状態にまでに
なっているのである。

「どうせ、だめだったんでしょう」
「ん。・・・ああ」

美奈子の言葉に対して、僕は腹立たしささへ感じない。
それほど僕は日常的にこの挑戦を続けてきたのである。

「やっぱり、ムックはいけないわよ。宇宙人が出る話なんて、
余程のセンセーショナルな内容でなけりゃ、読者には魅力を感じさせないわ」

「ああ」

僕の生返事もいつもと同じパターンだった。
美奈子はこれでも嘘か本当か中葉大学の文学部卒業だという。

確かに文才は僕よりは上のようだけれど、
決して僕の作る漫画のシナリオには手を貸そうとはしない。

興味がないのか、僕に気を使っているつもりなのか。
でも一体どういう気持ちで批判だけはするのか、
僕には彼女の僕の漫画に対する気持ちが分からなかった。

「ねぇ、宏明、昨日マイルドに雨宮先生が来てたわよ」

宏明というのは僕のことである。
遅くなったが「鈴屋宏明」というのが僕の名前である。

そして、「マイルド」というのは、
美奈子が勤めているスナックの名前である。

「雨宮って、雨宮雅夫先生か」
「ええ(宇宙人ギギ)の雨宮先生よ」

「なんだって!


  1. て!
    (この分岐より先「一号二号三ゴー」さんの物語です。)


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