足裏にやわらかい泥を感じている。
歩きつづけている。止まると泥にしずむ。
手足に重い水がからみつく。体力がぬけていく。
黒く長いものが無数につきたっている。
泥の根元では太く、弓なりになって
先にいくにつれて尖っていく。
よろけて刺されば、毒が全身にまわって命がない。
頭上を舟がすべっていく。
乗客が水底をのぞきこんでいる。
泥にしずむか、棘に刺さるか、
窒息するまで歩きつづけるかを見ている。
あの舟にのっていた記憶がある。はるか昔のこと。
なぜ舟をおりているのかと思う。
なぜこのからだは水に浮かないのかと思う。
歩きつづけている。
まだ歩きつづけている。
水底の泥はゆるやかに傾斜し、深くなっていく。
水面と舟は遠くなっていく。
どんどん遠ざかっていく。
なぜ深くなる一方なのかと思う。
なぜこんなに息がつづくのかと思う。
歩きつづけている。
まだ歩きつづけている。
なぜ泥にしずんでしまわないのかと思う。
なぜ棘に刺さってしまわないのかと思う。
なぜ息をすべて吐きすてて、
窒息してしまわないのかと思う。
歩きつづけている。
まだ歩きつづけている。
舟からのぞきこむことを馬鹿馬鹿しいと思う。
歩きつづけることを馬鹿馬鹿しいと思う。
歩きつづけている。
まだ歩きつづけている。
歩きつづけている。
まだ歩きつづけている。
歩きつづけている。
まだ歩きつづけている。

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