若月先生から電気主任技術者制度の
歴史が届きました.


 

 

電気主任技術者制度の歴史

 

明治11年3月25日,電信中央局開局式の祝宴において日本で初めてアーク灯が

点灯されました.この日を境として日本における電気の歴史が始まったと言っても

よいでしょう.この日は後に電気記念日として制定されました.以下,日本におけ

る電気の歴史を略記すれば次のようになります.

明治17年6月

 上野駅で初めて白熱灯が点灯

 

明治20年11月

 日本初の電灯供給事業開始;東京電灯会社が火力発電により直流250V3線式

により日本郵船などに電灯配電を実施した.

 

明治22年5月

 日本初の交流発電開始;それまでの発電機はすべて直流発電機が導入されていた

のが大阪電灯会社が米国トムソン・ハウストン会社製の交流1150V,125サ

イクル,30キロワットの発電機を導入した.その後明治24年末までに,電灯会

社11社,電灯数26,237灯に達した.

 

明治24年1月20日

 帝国議会の仮議事堂が原因不明の火災により焼失;この火災の原因が不明のため

火災の原因が漏電とされ皇居内外に設置された電灯も休止の憂き目に合い,巷では

電気は火災の原因になり危険であるという誤った噂が流れて順調に成長を続けてい

た電気事業が窮地に立たされた.

 

 この仮議事堂の火災を機に電気の統一的な取り締まりと電気工事に関する施設方

法を規定する必要性が生じ,電気事業を取り締まる法律が制定されました.

 

逓信省官制(明治24年7月27円勅令第95号)

 

第1条 逓信大臣ハ郵便,電信,船舶,海員,航路標識及郵便為替,郵便貯金二関

スル事務ヲ管理シ電気事業ヲ監督ス。

第7条 電務局ハ電信電話二関スル事務及電気事業監督ノ事ヲ掌ル.

附則

第15条 本令ハ明冶24年8月16日ヨリ施行ス.

 

 このように始めは現在の通産省に相当する省庁ではなく逓信省が管轄しましたが

,法律制定前は電気の保安に関してかんたんな警察命令があったに過ぎませんでし

た.

この法律により電気事業を営もうとするものは,

 

逓信省訓令 第7号(明冶24年8月17日〕誓視庁・北海道庁・府県

自今其笹下ニ於テ電気事業ヲ営マントスルモノアルトキハ取締方法ヲ設ケ,本大臣

ノ認可ヲ得テ後之ヲ許可スヘシ.現二其事業ヲ営ムモノニ在リテハ現在実行スル取

締方法ヲ詳具シ本年10月1日迄二之ヲ本大臣二報告スヘシ.

 

を遵守しなければ成りませんでした.逓信省訓令に基づき警視庁が明治24年12

月28日に電気営業取締規則を発布しました.

 

        電気営業取締規則

(明治二十四年十二月二十八日警察令第二十三号)

          第一章

第一条 電気営業トハ電灯線又ハ電力線ヲ施設シ

他人ノ需メニ応シ電気ヲ供給スルモノヲ謂フ

第二条 電気宮業ヲ為サントスルモノハ願書ニ架空線又ハ埋線施設工事ノ落成期ロ

ヲ記シ且左ノ書類ヲ添へ警視庁ニ願出免許ヲ受クヘシ 其ノ改造変更若クハ延長セ

ントスルトキモ亦同シ 但汽罐汽機据付ニ係ル出願手続ハ明治二十二年五月警察令

第二十一号汽罐及汽機取締規則ニ依ルヘシ

一 電柱及埋線ノ敷地使用二係ル東京府庁ノ免許証写但私有地二係ルモノハ其地主

ノ承諾書.

二 図面ニハ線路竝二其近傍ノ町名電柱最近地ノ番地電柱ノ番号電柱ノ位置街路ヘ

ノ出幅埋線試験口ノ位置電信線電話線非常報知線ト竝行又ハ交又スル所アレハ其個

所変換器若クハ開閉器等ヲ取ル電柱等ヲ凡例ヲ挙ケ記スヘシ 又電流式ノ区別及電

圧ノ度等其他参照トナルヘキ件ハ図中適宜ノ所ニ簡明ニ記載スヘシ

三 会社二係ルハ其社則但最初出願ノ時二限ル

 

第二章電線施設制限

第十六条 空架ノ電灯線又ハ電力線ノ最下線ハ地表ヲ距ル十六尺以上タルヘク又家

屋ノ側面ニ沿ヒ架級スルモノハ四尺以上屋上ヲ架渉スルモノハ六尺以上其家屋ヨリ

隔離セシムヘシ 但需用家ヘノ引込線ニシテ家屋トノ距離ハ此限リニアラス

 

第三章就業制限

第二十五条 線路ハ毎日試験ヲ為シ完全ト認ムルニアラサレハ送電スヘカラス

第二十六条 営業者ハ其送電スル電灯線又ハ電力線架設線路ノ近傍ニ出火アルトキ

ハ直ニ現場二技術者又ハ工夫ヲ派出シ危険予防ノ手続ヲ施シ其旨現場出張ノ警察官

竝ニ消防官ニ届出ヘシ 但該官ノ許可ヲ得ルニアラサレハ退場スルヲ得ス

 

第四章罰則

第二十九条 第二条 第五条 第九条 第十条 第十一条 第十四条 第十八条但

書 第二十一条 第二十三条第二十四条 第二十五条 第二十六条及第二十八条ヲ

犯シタルモノハ一日以上三日以下ノ拘留二処シ又ハ二十銭以上一円二十五銭以下ノ

科料二処ス

 

附則

一 自家用ノ為メ発電器械ヲ据付公道又ハ他人ノ所有地ヲ以テ電灯線又ハ電力線ヲ

施設セントスルモノハ本則第一条 第六条 第七条及第十三条ヲ除ク外総テ各条ヲ

適用ス

二 従前ノ営業者ハ本則発布ノ占日ヨリ二週間内ニ本則第六条ノ届出ヲ為スヘシ 

 

(以上抜粋)

 

全三十条のこれが我が国初めての条文化された電気に関する規則となりました.規

則の内容は現在の電気事業法,電気技術基準,電気用品取締法を合わせたものにな

っています.しかし現在のような主任技術者制度のようなものはまだ確立していま

せが,同条第六条に,「営業者ハ事業上相当ノ学識経験アル技術長ヲ置キ開業前其

履歴書ヲ添ヘ警視庁ニ届出ヘシ」とあり,技術的な必要性は認めていたようです.

しかし現在の法律と根本的に異なるのは警察庁が取り締まりに当たっていたという

ことです.この規則では屋内配線に関する規定はなにもなく屋外架空線に関するも

ののみ規定されており,その規定も架空線の高さ,離隔距離および保安器具等に関

する簡単なものでした.しかし屋内配線に関しては仮議事堂火災の教訓から木製ク

リートを陶製のクリートに替えたりして注意を払うようになり,その結果電気事業

は着実に信頼を得て明治25までに電灯事業者数12社,総電灯数35647灯に

達しました.

 電気事業の拡大に伴い水力発電所が各地に建設されるようになり行政的な取り締

まりの必要性が論議され,統一的な取り締まりをするために電気事業の監督は通信

局総務課・庶務課に,技術的な事項は電気試験所が担当しました.

 

逓信省訓令第3号(明治26年10月11日)警視庁・北海道庁・府県

 

 其管下ニ於テ電気事業取締規則又ハ電気事業取締規則ニ依リ出願スルモノアルト

キハ其都度本大臣ノ認可ヲ得タル後之ヲ許可スヘシ。

但既ニ許可シタルモノハ本月31日迄ニ本大臣ニ報告スヘシ。

この当時の発電所は火力発電依よるものが主で,水力による発電は明治27年頃か

ら全国各地に興り,明治29年には水力発電10カ所,火力発電23カ所合計33

の電気事業者になり,電灯取り付け個数も103306個になりました.このよう

に電気事業は急速な発展を遂げたので政府は欧米の電気規則を参考にして,明治2

9年5月9に電気事業取締規則を制定し,同年6月1日に施行しました.

 

 電気事業取締規則

(明治二十九年五月九日逓信令第五号)

 

第一三条 起某者ハ学識経験アル主任技術者ヲ置キ工事施行前其ノ履歴書ヲ添へ逓

信大臣ニ屈出ヘシ 爾後之ヲ変更シタル場合ニハ三日以内ニ其ノ履歴書ヲ添へ屈出

ヘシ 但シ逓信大臣ニ於テ不適当卜認ムルトキハ其ノ変更ヲ命ルコトアルヘシ

第十九条 左ノ事項ハ三日以内ニ地方長官ニ届出へシ

一 事業ノ開始及廃止

二 会社又ハ事務所ノ名称ノ変更

三 会社又ハ事務所ノ位置及其ノ変更

四 起業者又ハ主任技術者ノ改氏名

五 取締役業務担当者其ノ他事業管理者ノ氏名若ハ

其ノ変更又ハ改氏名

六 送電ノ中止但シ其ノ理由ヲ記スヘシ

第二十七条 劇場 紡績工場又ハ火薬 石油 其ノ他爆発燃焼シ易キ危険ノ物品ヲ

若ハ貯蔵スル場所内へ電気ヲ供給セムトスルトキハ起業者需用者及担技術者連書ノ

上其ノ工事方法書ヲ地方長官二差出シ認可ヲ受クヘシ

工事落成ノ後ハ三箇月毎二一回主任技桁者ノ試験成績書ヲ地方官二差出スヘシ 

(以上抜粋)

 

 この電気事業取締規則は,総則,電灯電力,電気鉄道,雑則,罰則,付則の6章

,111条からなる本格的な規則となっています.この規則の特徴は初めて主任技

術者の制度が取り入れられたことにあります.主任技術者に関するものを抜粋とし

て挙げましたが,第十三条にあるように主任技術者は現在のような試験により選出

されるのではなく学識経験のある人が選ばれました.主任技術者制度が取り入れら

れた背景にはその当時の電気技術者の地位が非常に低く,電気事業者により安易に

解雇にされたりして電気技術者の地位が不安定であったことによる弊害を除去する

ために設けられたようです.

 

 明治29年の電気事業取締規則は統一的な法規制定の要望に答えるための暫定的の

法規でした.そしてその制定に当り逓信省・帝国大学・警視庁等の関係者のみにて

作成され,民間等の技術者はその規則に対し全く関与しなかったため,規則では対

処できない実際問題に対する考察が行届かない不十分なものでした.そこで民間事

業者が日本電気協会(明治25年5月創立の日本電灯協会を明治28年5月改称)を通じ

て同規定改正を要望し,電気主任技術者試験規則の制定,電気事業取締規則適用の

範囲・電気単位の制定等を含めて明治30年6月23日逓信大臣により逓信省令弟14号を

以て改正取締規則を発布,翌31年7月10日より施行されました.この時の改正は技術

に関する規定の改正を主とするものでその概要は次のとおりです.

 

 低圧・高圧の区分の変更

 水力発電許可に対する水利使用許可証の謄本添付

 工事施行申請書に対する工事設計明細書の具備

 絶縁t線の種別の規定

 単線式電気鉄道の許可に関する事項等

 

 この改正で使用電圧の区分は低圧は直流600V,交流300実効V以内,高圧は直流

3,500V,交流3,500実効V以内で,需用家屋内に供給する電圧は直流500V,交流

250実効V以内とし,工作物の落成検査の規定が設けられました.

現行の電気事業法では,電気事業用の電気工作物の工事・管理及び自家用電気設備

の工事・管理などを行うには電気主任技術者が必要なことはお分かりだと思います

が,電気主任技術者が必要な電気設備は電気事業法第66条に置いて次のように規定

されています.

 

第66条

この法律において「一般用電気工作物」とは,他の者から通商産業省令で定める電

圧以下の電圧で受電し,その受電の場所と同一の構内(これに準ずる区域内を含む

.以下同じ)においてその受電に係る電気を使用するための電気工作物であって,

その受電のための電線路以外の電線路によりその構内以外の場所にこある電気工作

物と電気的に接続されていないものをいう.たたし,次に掲げるものを除く.

一 発電用の電気工作物を設置する者がその発電用の電気工作物の設置の場所と同

一の構内に設置するもの

二 爆発性又は引火性の物が存在するため電気工作物による事故が発生するおそれ

が多い場所であって,通商産業省令で定めるものに設置するもの

三 興行場,公会堂その他の公衆の出入りする場所であって,通商産業省令で定め

るものに設置するもの

2 この法律において「自家用電気工作物」とは,電気事業の用に供する電気工作物

及び一般用電気工作物以外の電気工作物をいう.

 

 明治31年7月10日施行された電気事業取締規則の第37条には次のような規定があり

ます.

 

第三十七条 劇場 寄席 紡績工場 又ハ火薬 石油 其ノ他爆発燃焼シ易キ危険

ノ物品ヲ製造シ若シ貯蔵スル場所内ニ電気ヲ供袷セムトスルトキハ事業者及需用者

連署ノ上担当技術者ノ署名シタル工事方法書ヲ地方長官ニ差出シ認可ヲ受クヘシ 

但シ一時限リ劇場内ニ於テ興行用ニ供スル為二千「ワット」ヲ超過セサル電気ヲ供

袷セムトスルトキハ本条ノ認可ヲ受クルヲ要セス其ノ都度地方長官ニ届出ヘシ

前項ニ拠り地方長官ノ認可ヲ待テ施行シタル工事落成ノ後ハ三箇月毎ニ一回主任技

術者ノ試験成績書ヲ地方長官ニ差出スヘシ

(抜粋)

 

 以上を比較すれば,当初から爆発物を扱う電気需要場所や劇場などの人が多数出

入りする場所に対する規定は厳しい規定がなされていたことは当時でも公衆の集ま

る場所での安全には注意を払っていたのですね.

 現在でも技術の進歩にたいして法律などが追従できないことがよくありますが,

電気技術がまだ未熟であった頃は今以上に技術の進歩のスピードが速かったと思わ

れます.それ故に改正したばかりの電気事業取締規則が不十分になり第2回目の改

正が明冶35年8月逓信省令第36号を以て電気事業全般の改正を行ない,同年10月1日

よりこれを施行しました.

本改正は「総則・許可認可申請及び届出・工事の着手・落成検査及び使用認可証・

主任技術者・工事施設の送電及び記録・監査試験改修及び停止並に許可認可の取消

・罰則・補則」の8章より成っています.主任技術者に関しては初めて主任技術者を

4箇月以上選任しないときは電気事業の許可又は認可を取消し,又は電気工作物の使

用を停止する事が明記されてこれにより主任技術者の選任を励行させる原動力とな

りました.

この改正でも主任技術者に関する資格は試験ではなく学識経験者等の曖昧な規定で

,次のようになっています.

 

第四章   主任技術者

 

第三十八条 電気事業者ハ工事着手前学識経験アル主任技術者ヲ選任シ技術ニ関ス

ル事項ヲ担任セシムヘシ 主任技術者ヲ選任シタルトキハ遅滞ナク左ノ事項ヲ具シ

タル履歴書ヲ添へ逓信大臣ニ届出ツヘシ 爾後之ヲ改任又ハ変更シタルトキ亦同シ

一 主任技術者ノ氏名 住所 年齢及国籍

二 学歴

三 官庁又ハ会社其ノ他ノ事業ニ従事セシトキハ其ノ勤務ノ場所職務ノ書類及其ノ

終始ノ年月日

四 卒業又ハ修業証書ノ謄本

逓信大臣ハ必要ト認ムル場合ニ於テ二人以上ノ主任技術者ヲ選任セシムルコトアル

ヘシ

逓信大臣ハ主任技術者ヲ不適任其ノ他ノ事由ニ因リ職務ヲ竭クスコト能ハサルモノ

ト認ムルトキハ其ノ改任ヲ命スルコトアルヘシ

 

 このように主任術者になるためには学校を卒業しなければならないので,現在の

ようにほとんどの人が学校で教育を受ける現在とは違いその当時主任技術者になれ

る資格があった技術者はそう多くはなかったことが想像されます.現在の電気の資

格のほとんどが年齢,学歴,経験が必要でない非常に開かれた試験になっています

が,必要な学歴を得ることが困難な時代にこそこのような資格制度が必要ですね.

そこで学歴はないけれど優秀な技術者を主任技術者として登用するために主任技術

者に関する試験制度が考え出されました.

 

    旧電気事業法と旧電気事業主任技術者検定制度

       主任技術者資格検定制度の創設

       旧電気事業法の制定(明治44年)

 

今まで述べてきた電気事業に関する規則は法律ではなく省令であり公益事業として

の性格をもつようになってきた電気事業の健全な発達を図るには不十分なものにな

ってきました.そこで当時の政府は明治43年3月全文22ケ条からなる電気事業法案を

帝国議会に提出しました.

 

         電気事業法

朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル電気事業法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム

御名御璽

明治四十四年三月二十九日

内閣総理大臣     侯爵     桂 太郎

内 務 大臣     法学博士男爵 平田東助

逓 信 大臣     男爵     後藤新平

        法律第五十五号

この法律の骨子は

(1)電気事業の保護助長

(2)公益的監督

(3)保安監督

 

であり,電気事業法は電気事業の保護助長を目的とし,電気工作物についての保安

監督は電気事業取締規則で行なうようになりました.電気事業法の公布に伴って,

この法律を施行するに必要な関係命令が次のように制定公布され,明冶44年10月1日

から施行されました.

 

(1)電気事業法施行規則(明治44年9月5日分布 逓信省令第25号)

(2)電気事業法第17条ニ依り電気事業法ヲ準用スル件(明冶44年8月29日 公布勅

令第237号)

(3)電気事業法準用ニ関スル手統(明治44年9月28日公布 逓信省令第30号)

(4)自家用電気工作物施設規則(明治44年9月28日公布 逓信省令第31号)

(5)官庁ニ於テ電気事業ヲ営ム場合ニ関スル件(明治44年8月29日公布勅令第231号)

(6)官庁施設電気事業規則(明治44年10月16ロ公布 逓信省令第36忌)

(7)電気事業主任技術者資格検定規則(明治44年9月5日公布 逓信省令第27号,そ

の後大正10年5月逓信省令第24号で改正,従来1級から5級まであった資格を第1種か

ら第3種に改める。

(8)電気工事規程(明治44年9月5日公布 逓信省令第26号),その後大正8年10月

に電気工作物規程(逓信省令第85号)と改正

(9)電気測定法第7条及第8条ノ施行期日竝附則第3項ノ期間(明治44年12月27日公

布 勅令第295号)

(10)電気計器ノ公差,検定及検定手数料ニ関スル件(明治44年12月27日公布 明

治45年1月1日施行 勅令第296号)

(11)電気計器検定規則(明治44年12月28日公布 明治45年1月1日施行 逓信省令

第50号)

 

 帝国議会とあるようにこの当時の官庁の権限は絶大なものであったことが想像さ

れ,その結果官庁関係に関する規則が別途設けられているのが現在の電気に関する

法律と少々異なるところとなっています.ここで注目しなければならない規則とし

て電気工事規程が挙げられます.これは後に電気工作物規程,現在では電気設備に

関する技術基準を定める省令略して電気設備技術基準という方がよく知られている

規則ですが,この規定により従来よりも具体に電気工事に関する工事規定を示した

ことは評価されるでしょう.

 この電気事業法は電気事業に対する保護特権を中心とする22ケ条の規定に過ぎな

かったため,多くの垂要な規定が以下に述べる規則に盛り込まれています.現在,

電力会社などの電気事業を行う会社は電気の供給区域が重複しないように行政的に

区分されていますが,この法律の制定された当時は電気の普及発達を図るため,電

気の供給区域の重複許可が行なわれていました.本来電気事業の経営許可に伴って

,保護特権が与えられると同時に,供給義務が負わされるのであるが,これらの義

務が法律で規定されず,規則で規定されている。なお,この規則の公布施行に伴っ

て,明治29年制定の電気事業取締規則は廃止されました.

 

 明治44年の電気事業法では,まだ本文には主任技術者の規定はなく,電気事業

法施行規則に第4章主任技術者が設けられ,第38条から第43条にわたって規定されて

います.

 

逓信省令第二十五号

電気事業法施行規則左ノ通定ム

明治四十四年九月五日 逓信大臣 伯爵林 薫

       電気業法施行規則

          目次

第一章 事業ノ創設及変更

第二章 工事施行

第三章 土地立入 植物ノ伐除移植 土地使用 地中電気工作物位置変更並裁定

第四章 主任技術者

第五章 検査

第六章 業務

第七章 監査

第八章 罰則

    付則

 

        第四章 主任技術者

 

第三十八条 電気事業者ハ工事着手前ニ主任技術者ヲ選任シ技術ニ関スル事項ヲ担

任セシムヘシ 主任技術者ノ欠位ヲ生シタルトキハ電気事業者ハ遅滞ナク其ノ後任

者ヲ選任セシムヘシ

 

第三十九条 主任技術者ハ別ニ定ムル所ニヨリ相当ノ資格ヲ有スル者ナルコトヲ要ス

 

第四十条 電気事業者主任技術者ヲ選任シタヲトキハ履歴書ヲ添へ逓信大臣ニ届出

ツヘシ之ヲ変更シタルトキ亦同シ主任技術者ニ欠位ヲ生シタルトキハ其ノ旨逓信大

臣ニ屈出ツヘシ 本条ノ届書ハ所轄逓信局長ヲ経由スヘシ

 

第四十一条 逓信大臣ハ主任技術者カ其ノ職務ヲ怠又ハ其ノ職務ヲ行フニ不適当ナ

ル行為アリト認ムルトキハ其ノ解任ヲ命スルコトアルヘシ

 

第四十二条 主任技術者疾病 旅行 其ノ他ノ事由ニヨリ一月以上ニ亘り其ノ職務

ヲ執ルコト能ハサルトキハ電気事業者ハ其ノ代務者ヲ選任シ履歴書ヲ添エ其ノ旨所

轄逓信管理局長ニ届出ツヘシ

 

第四十三条 本令ニヨリ会計ニ提出スル書類同而中技術ニ関スルモノハ主任技術者

又ハ其ノ代務者之ニ署名捺印スヘシ 但シ第三十八条ニ依ル主任技術者ノ選任前ニ

在リテハ其ノ設計ヲ担当シタル技術者之ニ署名捺印スヘシ

 

 電気業法施行規則の第三十九条により初めて主任技術者が資格検定により選任さ

れることが可能になりました.これにより学歴はないが技術が優秀な技術者が主任

技術者として登用される機会が初めて我が国導入された記念すべき瞬間です.主任

技術者の資格検定は電気事業主任技術者資格検定規則により別途定められています

がこれは以下のようなものです.

 

逓信省令第二十七号

電気事業主任技術者資格検定規則左ノ通定ム

 明治四十四年九月五日 逓信大臣 伯爵 林 薫

    電気事業主任技術者資格検定規則

第一条 電気事業主任技術者ノ資格ハ左ノ区別ニ依り之ヲ検定ス

等級          電気事業ノ種類

第一級       電気供袷事業及電気鉄道事業

第二級       一万五千「ヴォルト」以下ノ電気供給事業及電気鉄道事業

第三級       低圧又ハ高圧ノ電気供給事業及電気鉄道事業

第四級       低圧又ハ高圧ノ電気供給事業

第五級       低圧ノ電気供給事業

第二条 検定ハ逓信大臣ノ命シタル検定委員之ヲ行フ

第三条 検定ハ左ノ試験科目ニ付試験ヲ行ヒ合格シタル者ニハ合格証書第一号様式

)ヲ付与ス

電気理論    (第四級及び第五級ニハ之ヲ除ク)

電気機械及変圧器並ニ附属品

電力輸送並配電 (第五級ニハ電力輸送ヲ除ク)

電灯

電気鉄道    (第四級及び第五級ニハ之ヲ除ク)

蓄電池     (第五級ニハ之ヲ除ク)

電気及磁気測定

発電所設計附原動機

第四条 元工部大学校及ハ帝国大学ニ於テ電気工学ヲ専修シ其ノ卒業証書ヲ有スル

者 又ハ電気工学ニ関シ工学博士ノ学位ヲ有スル者ハ第一級ノ資格ヲ有スルモノト

元東京工業学校又ハ高等工業学校ニ於テ電気機械工学ヲ専修シ其ノ卒業証書ヲ有ス

ル 者ハ第三級ノ資格ヲ有スルモノトス

第五条 第三級以上ノ資格ヲ有スル者ニシテ満二年以上電気技術ノ実務ニ従事ノ責

任アル地位ニ在リタル者ハ検定委員ノ銓衡ヲ経試験ニ依ラスシテ上級ノ合格証書ヲ

受クルコトヲ得

第六条 試験検定ハ毎年一回之ヲ行ヒ其ノ期日及場所ハ予メ之ヲ官報ニ公告ス 但

シ逓信大臣ニ於テ必要卜認ムルトキハ臨時ニ之ヲ行フコトアルヘシ 銓衡検定ハ随

時之ヲ行フモノトス

第七条 試験検定ヲ受ケムトスル者ハ指定ノ期日マテニ履歴書(第三号様式)戸籍

ノ勝本又ハ抄本及写真ヲ添へ検定申請書(第二号様式)ヲ逓信大臣ニ提出スヘシ

銓衡検定ヲ受ケムトスル者ハ随時ニ履歴書(第三号様式)戸籍ノ謄本又ハ抄本並資

格ノ証明書ヲ添へ検定申請書(第二号様式)ヲ逓信大臣ニ提出スヘシ

書外国人ニ在リテハ身分ニ関シ本国領事ノ証月アル書面ヲ以テ戸籍ノ謄本ニ代フル

コトヲ得

第八条 検定ヲ申請スル者ハ左ノ区別ニ従ヒ検定手数料ヲ納ムヘシ

等級       検定手数料    

第一級         十円

第二級又ハ第三級    五円

第四級又ハ第五級    二円

第九条 前条ノ手数料ハ収入印紙ヲ検定申請書ニ貼附シテ之ヲ納ムヘシ

既納ノ手数料ハ検定ヲ受ケサル場合ト雖之ヲ還付セス

第十条 検定委員ニ於テ検定中請者カ其ノ資格又ハ履歴ヲ偽リ若ハ試験ニ際シテ不

正ノ行為アリタリト認メタルトキハ其ノ検定ヲ無効トス

合格証書付与ノ後ニ於テ前項ノ事実アリタルコトヲ認メタルトキハ其ノ合格証書ヲ

無効トス

第十一条 合格者ハ之ヲ官報ニ公告ス     

         付則

第十ニ条 本令ハ明治四十四年十月一日ヨリ之ヲ施行ス

第十三条 本令発布ノ際電気事業取締規則ニ依ル主任技術者タル者ハ本令施行ノ日

ヨリ一年六箇月内ヲ限り現ニ従事スル電気事業又ハ第一条ノ区別ニ依り之ニ相当ス

ル等級ノ電気事業主任技術者タルコトヲ得 本令発布前三年内ニ於テ電気事業取締

規則ニ依ル主任技術者タリシ者ニシテ同期間内ニ於テ満二年以上電気技術ノ実務ニ

従事シタル経験ヲ有スル者ハ検定委員ノ銓衡検定ヲ経テ合格証書ヲ受クルコトヲ得

 

 この規則ではほんど現在の試験制度と同じようなことが決められていますが,試

験科目などが現在のものはかなり異なっています.この試験のおかげで学歴のない

技術者にも主任技術者なるチャンスが生まれたことは大いに評価できることです.

その資格出来たことで多くの先輩達に希望や失望を与え,また現在資格を取ろうと

している受験者に希望や挫折感を与え続けているわけですが,これが「電験」の始

まりです.

 

 自家用電気工作物における電気主任技術者資格等級の変遷

 

 自家用電気工作物における電気主任技術者の資格等級は,明治44年の電気事業法

までは電気事業と同じ資格等級で定められ(電気事業の中に自家用電気事業が含ま

れていたため)ていましたが,明冶44年に電気事業に区別した自家用電気工作物が

法定されたので,自家用電気工作物施設規則(明治44年9月28日逓信省令第31号)に

よって下の如く定められました。

 

第一級;各種ノ電気工作物

第二級;各種ノ電気工作物

第三級;使用電圧15000「ボルト」以下の電工物

第四級;低圧又ハ高圧ノ電気工作物

第五級 ;低圧又ハ高圧ノ電気工作物

 

 これが大正2年6月に次のように改められました。

 

第一級;各種ノ電気工作物

第二級;各種ノ電気工作物

第三級;使用電圧15000「ボルト」以下の電気工作物

第四級;使用電圧7,000「ボルト」以下の電気工作物

第五級;低圧又ハ高圧ノ電気工作物

第六級;市街地以外ノ地域内ニ施設シタル低圧電気工作物,50「キロワット」以下

ノ低圧(市街地ニ施設セルモノ)又ハ高圧電気工作物

 

 これが大正10年5月10日逓信省令第26号の改正自家用電気工作物施設規則では,

 

第一種;各種の電気工作物

第二種ノ資格ヲ得タル後2年以上電気 技術ノ経験ヲ有 スル者従前ノ規定ニ依リ第

2級 ノ資格ヲ有スル者;各種の電気工作物

第二種;使用電圧35,000「ボルト」以下ノ 電気工作物

第三種ノ資格ヲ得タル後2年以上電気技術ノ経験ヲ有スル者,従前ノ規定ニ依リ第

4級ノ資格ヲ有スル者;使用電圧15,000「ボルト」以下ノ 電気工作物

第三種;低圧又ハ高圧ノ電気工作物

電気技術ニ関シ相当知識経験ヲ有スト認定セラレタル者,従前ノ規定ニ依リ第6級

ノ資格ヲ有スル者;市街地以外ノ地域内ニ施設シタル低圧電気工作物,50「キロワ

ット」以下ノ低圧(市街地ニ施設セルモ) 又ハ高圧電気工作物

 

 これが昭和7年11月21日逓信省令第56号改正自家用電気工作物施設規則に於ては,

その第24条に於て次の如く定められました.

 

 第1種;各種の電気工作物

 第2種;使用電圧3,5000「ボルト」以下ノ電気工作物及構内ニ施設スル各種ノ電

気工作物

 第3種;低圧及高圧ノ電気工作物(構外ニ施設スル電気鉄道ヲ除ク)構内ニ施設ス

ル使用電圧25,000「ボルト」以下ノ電気工作物 

 電気技術ニ関シ相当知識経験ヲ有スト認定セラレタル者;低圧電気工作物(構外

ニ施設スル電気鉄道ヲ除ク)及構内ニ施設スル,100「キロワット」以下ノ高圧電気

工作物

 

 新旧種別の切替に際し,旧第一級は第一種に,旧第二級及び旧第三級は第二種に

旧第四級及旧第五級は第三種に格付けされました.

昭和37年4月9日同省令第47号で改正になった自家用電気工作物施投規則においては

,次のように定められました.

 

第一種;各種ノ電気工作物

第二種;構内ニ施設スル各種の電気工作物,使用電圧40,000「ボルト」未満の電気

工作物ヲ構外ニ亘リ施設スルモノ

第三種;構内二施設スル使用電圧25,000「ボルト」未満ノ電気工作物,高圧電気工

作物(電気鉄道ヲ除ク)ヲ構外ニ亘リ施設スルモノ

電気技術ニ関シ相当知識経験ヲ有スト認定セラレタル者;構内二施設スル500「キロ

ワット」以下ノ高圧電気工作物(100「キロワット」ヲ超エル発電設備ヲ除ク)及構

外ニ亘リ施設スル100「キロワット」以下ノ電気工作物

電気技術ニ関シ相当知識経験ヲ有スト認定セラレタル者;低圧電気工作物(100「キ

ロワット」ヲ超エル発電設備又ハ構外ニ亘リ施設スルスル電気鉄道ヲ除ク)電気事

業用電気工作物

 

 昭和40年7月1日施行された施行規則第65条により,

 

第1種;各種の電気工作物

第2種;構内に設置する電圧170000V未満の電気工作物及び構内以外の場所に設置す

る電圧100000V未満の電気工作物

第3種;構内に設置する電圧50000V未満の電気工作物及び構内以外の場所に設置する

電圧25000V未満の電気工作物(出力5000kW以上の発電所を除く).

 

 このほかに主任技術者免状を持っていない人でも許可主任技術者として事業所の

電気管理をすることができる制度が設けられました.この許可のの基準としては,

昭年40年7月1日付け,通商産業省公益事業局長通達第593号によって,

 A.契約最大電力500kW未満の場合は,

 ・ 高等学校もしくはこれと同等以上の教育施設において電気工学に関する学科

を修めて卒業した者

 ・ 高圧電気工事技術者試験に合格した者

 ・ 高圧の技能認定試験に合格した者

 B.契約最大電力が100kW未満の場合は,

 ・ 電気工事士の免状所有者

 ・ 短期大学または高等専門学校もしくは同等以上の教育施設において電気工学

以外の工学に関する学科において,一般電気工学(実験を含む)に関する科目を修

めて卒業した者

のような基準が設けられました.

 また現在では事業所の規模により次の主任技術者の選任の方法がとられています

 

電気主任技術者の選任

(1)届出主任技術者;有資格者を選任する場合

(2)許可主任技術者;有資格者以外を選任する場合

    対象;発電所(出力500kW未満),変電所(電圧10kV未満),送配電線路(

電圧10kV未満),需要設備(最大電力500kW未満)

    資格;工業高校以上の卒業者,第1種電気工事士試験合格者,高圧電気工事

士技術者合格者など,

(3)兼任主任技術者;他の主任技術者を選任する場合

    対象;設置者が異なる自家用の電気工作物以外の電気工作物

    資格;電気主任技術者免状の交付を受けている人

(4)委託主任技術者;主任技術者を選任しない場合

    対象;出力500kW未満の水力,地熱(汽力),ガスタービン,内燃力,燃料

電池,太陽電池,風力の各発電所および電圧7kV以下,最大電力1000kW未満の需要設備

 

というように自家用電気設備の主任技術者の選任方法には色々な選択枠があること

が分かります.

有資格者でも試験合格者と認定合格者があり主任技術者の資格制度はなかなか複雑

になっています.認定後合格者はご存じのように指定された学校を卒業し定められ

た電気技術者としての実務経験によって主任技術者免状が与えられるものです.こ

の認定制度に似たものが旧制度にもあり銓衡検定といわれていました.銓衡検定は

電気工学専修して卒業したものに対して第1種,第2種および第3種に相当する資

格を実務経験なしで与えるものでした.

 前にも述べたことですが,主任技術者制度が確立された背景には電気の安定・安

全な供給の確保と電気技術に従事している技術者の社会的地位を補償する意味あい

が大きかったのですが,この試験制度による主任技術者制度の副次的効果としての

国家試験制度が,わが国における電気技術水準の向上に寄与した役割はおおきいと

一般に認識されています.今も昔も電気技術者の登竜門とし,この国家試験に合格

することによって得られる社会的信用は大きなものであるといわれてきました.

 平成7年度から実施の新試験制度では,一次筆記試験と二次筆記試験両方合格し

なければ第1種及び題2種主任技術者免状がもらえないようになりましたが,現在

の試験制度の前の試験制度でも筆記試験として一次試験と二次試験が実施されてい

ました.このほかに口述試験もあるのは現在の試験と同じです.この試験制度でも

一次試験が合格しなければ当然二次試験は受験できなかったのですが,一次試験に

は免除制度があり,通商産業大臣の認定を受けた学校で,電気工学を専修し卒業し

た者は,その程度に応じて第一種,第二種,第三種の第一次試験が免除されました

 前に述べた銓衡検定では認定を受けた学校を卒業すれば免状がもらえたのですが

,認定学校の卒業者でも,第二次試験を要するものとしたのは,卒業学校の程度に

より直ちに,ある種の社会的地位を保証する制度(初期の主任技術者が事実上帝国

大学卒業者に限られた)には,それ自体公正を欠く弊害が多く認められることと,

新制度による学校教育の方針が,外から教え込むことを避け,自ら考えさせること

に重点を置いている結果,学生に相当な個人差が認められること等によるものが考

慮されたようです.

 

 現在,電気力金は認可制となっていますが明治44年の電気事業法制定当初は届

出制となっていました.平成7年度になって円高による景気の停滞により産業界は

電気料金の引き下げを求める声が挙がっているようですが,これと同じような状況

が昭和初期にありました.

大正の末期から昭和にかけて経済界が不況となり,特に昭和2年の金融恐慌を境とし

て不況が深刻になると,電気料金の値下論争が起こりはじめ,昭和5,6年になると

その論争が激化し社会問題となっていたようです.そのため電気料金の適正(値下

げ)をはかることは産業界の活性化を図るために必要な処置として急務であり,電

気事業の健全な発達をはかる上からも重要事項でした.そこで,電気料金とその他

電気の安定な供給をはかるために認可制をとることとしたのでです.このことは当

時の政府も賛成のようで,当時の衆議院で認可制にたいして次の希望条項がつけら

れました.

 

「電気料金は国民の実生活に即する重大問題にして,料金低下および供絡条件の改

善は今や一般国民の要望なり,政府はこれに関して最善の努力をなすへし」

 

 電気料金を届出制から認可制にするためには電気事業法を改正しなければなりま

せんが,此の当時電気料金の改正だけではなく電気事業とりまく状況が激変してい

たのです.

明冶44年電気事業法が制定された当時の電気事業用の発電力は僅か22万kWに過ぎま

せんでしたが,昭和4年には320万kWに達し,電気事業はもはや国民生活と切り離す

ことのできない最も重要な公益事業の一つとなりました.この320万kWの電力は,電

灯数が人口100人に対し全国平均55灯,すなわち2人に対して1灯余の割合なのですが

その当時では大変な数だったのしょう.

その当時の電気事業法は,電気事業設備に必然的に伴うべき危険を防止する目的と

事業を保護助長する目的が主なもので,電気事業の健全な育成,電気事業の社会と

の社会公共との緊密なる関係にはあまり考慮されていませんでした.その当時の日

本電気業界の状況は次のようでした.

 欧州大戦(第1時世界大戦)以後異常とも言えるほど発展した日本の産業界の発

展に伴い,その急激ともいえる電気の需用に応ずるために電気事業者は総力を挙げ

て電源の開発,電気供給の拡大につとめてきましたが,戦争後の不況による産業界

の不安を一掃するために,電気事業のより一掃の安定供給の必要性が求められるよ

うになりました.そこで電気事業に関する規定に関する命令などを法令化しようと

する働きかけが生まれ,電気事業法の改正となったわけです.

この改正電気事業法(昭和6年4月公布,昭和7年12月施行)は,その後数次に及ぶ

部分的改正がありましたが,昭和25年12月公益事業令が施行されるまで,18年の長

きにわたり,電気事業および電気施設に関する基本法令として重要な役割を果した

ものです.

 

      電気事業法(昭和7年12月施行)

第1条 本法ニ於テ電気事業ト称スルハ左二掲グルモノヲ謂フ

一 一般ノ需用ニ応ジ電気ヲ供給スル事業

二 一般運送ノ用ニ供スル鉄道又ハ軌道ノ動力ニ電気ヲ使用スル事業

三 第一号又ハ前号ノ事業ニ電気ヲ供袷スル事業

第l7条 電気事業者電気料金其ノ他供給条件ヲ設定シ又ハ変更セントスルトキハ命

令ノ定ムル所ニ体リ主務大臣ノ認可ヲ受クヘシ

主務大臣ハ公益上必要アリト認ムルトキハ電気事業者ニ対シ電気料金其ノ他供給条

件ニ関シ必要ナル命令ヲ為スコトヲ得

以上抜粋

改正電気事業法関係命令制定

改正電気事業法を施行するに必要な次の命令が制定公布され,昭和7年12月1日から

施行されました.   

(1)電気事業法施行令(昭和7年l1月勅令第354号)

(2)電気委員会官制(昭和7年11月勅令第355号)

(3)電気事業法施行規則(全文改正)(昭和7年11月逓信省令第52号)

(4)自家用電気工作物施設規則(全文改正)(昭和7年l1月逓信省令第56号)

(5)電気事業主任技術者資格検定規則(全文改正)昭和7年11月逓信省令第54号)

(6)電気工作物規程(全文改王)(昭和7年11月逓信省令第53号)

(7)電気事業会計規程(昭和7年1l月逓信省令第55号)

電気事業法が改正される度に電気主任技術者国家試験の試験科目も少しずつ変更さ

れていきました.

(1)明治44年9月5日 逓信省令第27号では,

1.電気理論(第四級及第五級ニハ之ヲ除ク)

2.電気機械及変圧器並二附属品

3.電力輸送並ニ配電(第五級ニハ電力輸送ヲ除ク)

4.電灯

5.電気鉄道(第四級及第五級ニハ之ヲ除ク)

6.蓄電池(第五級ニハ之ヲ除ク)

7.電気及磁気測定

8.発電所設計附原動機

 

となっていますが,このときは第一次,第二次試験の区別はありませんでした.

 

(2)大正2年6月の省令改正において新たに第一次試験として一般電気学術及其応用

の科目が設けられ,第二次拭験として次の科目が科せられました.

1.電気理論及電気磁気測定(第四級,第五級及第六級ニハ電気理論ヲ除ク)

2.電気機械及変圧器並附属器具

3.電力輸送配電並ニ蓄電池(第五級及第六級ニハ電力輸送ヲ除ク)

4.電灯

5.電気鉄道(第五級及第六級ニハ之ヲ除ク)

6.発電所設計附原動機

(3)昭和7年11月21日逓信省令第54号による改正において

1.電気理論及電気磁気測定(第三種ニハ電気理論ヲ除ク)

2.電気機器及附属機器

3.電力伝送,配電及蓄電池(第三種ニハ電力伝送ヲ除ク)

4.電灯,照明及電熱

5.電気鉄道(第三種ニハ之ヲ除ク)

6.発電所設計附原動機設備

 

(4)以後の改正において次のような改正がありました.

 

1.「電気機器及附属機器」は昭和22年の改正で「電鋲機器及材料」.

2.「発電所設計附原動機設備」は昭和27年の改正で「発変電所」.

3.「電灯,照明及電熱」と「電気鉄道」は昭和27年の改正で一緒になり「電力応用

一般」.

4.「電気関係法規及び電気施設管理」は昭和27年の規則改正の際新たに設けられま

した.

平成6年度までは次のように行われていました.

 

(5)昭和40年通商産業省令第52号

1.電気理論

2.発変電

3.送配電

4.電気機械

5.電気応用

6.電気法規

 

 この改正により,一次試験は廃止され二次試験が筆記試験となり口述試験はその

まま継続されました.改正当時からしばらくは筆記試験の試験期間は3日間で仕事

を持ってい受験する人には大変な負担となっていたようです.受験地は全国各地で

行われるのではなく各通産局の管轄地域ごとに行われるのはご存じだと思いますが

,その試験地から遠方に居住されている人たちが受験地に出向くのは現在のように

容易なことではありませんでした.現在ではほぼ東西に新幹線が完備されているの

で受験地に当日確実に行くことがほぼできますが,その当時では確実に受験するた

めに試験前日に試験地の近くに宿屋を取って試験に備えた先輩達がかなりあったそ

うです.また,現在では週休2日が当たり前であり,有給休暇も当然のように取る

ことができる労働条件が整っていますが有給休暇もままならない時代に平日4〜5

日の休みを取って受験するのはさぞ大変だったろうと想像することができます.こ

のような苦労をして試験に合格できればよいのですが,残念にも不合格となってし

まえばまた次の年に同じようにしなければならないので相当な心構えで受験された

のだろうと思います.

 このように現在では想像できないような苦労をして諸先輩方は受験をされてきま

した.それだけ電健という試験は電気技術者にとって魅力のある試験だとも言える

と思います.平成6年までも電験1種の口述試験の試験会場は東京のただ一カ所だ

けで,沖縄や北海道などの受験者の人たちすべて東京に集合しなければなりません

でした.その後試験日は2日に短縮されましたが,受験者のアンケート結果などに

より次のように試験科目の改正と試験日の短縮がなされました.

 

昭和40年通商産業省令第52号の一部改正

一次試験

1.電気理論,電子理論,電気計測及び電子計測に関するもの

2.発電所及び変電所の設計及び運転,送電線路及び配電線路(屋内配線を含む.

以下同じ)の設計及び運用並びに電気材料に関するもの

3.電気機器,パワーエレクトロニクス,電動機応用,照明,電熱,電気化学,電

気加工,自動制御,メカトロニクス並びに電力システムに関する情報伝送及び処理

に関するもの

4.電気法規(保安に関するものに限る)及び電気施設管理に関するもの

二次試験

1.発電所及び変電所の設計及び運転,送電線路及び配電線路の設計及び運用並び

に電気施設管理に関するもの

2.電気機器,パワーエレクトロニクス,自動制御及びメカトロニクスに関するも

 

 ご承知のように,一次試験日の試験期間は1日となり口述試験の代わりに二次試

験が導入され一次及び二次試験に科目保留制度が導入され受験者にかなり配慮され

た制度に変更されました.これにより受験することが今まで以上に容易となり合格

しやすい条件が整ったようですが,しかし忘れてはならないのは我々の先輩達が大

変なおもいをして休みを取りクーラーがない暑い夏の試験会場で汗を拭きながら受

験してきた歴史が現在の電験を支えているという事ではないでしょうか.先輩達の

努力に報いるようにこの電験を大事に後輩に残せるように我々はがんばらなければ

ならないでしょう.